火起こしプログラム




  社団法人 日本キャンプ協会主催の

  第3回日本キャンプ会議(1999年5月22日)

 に発表したものに写真を付けたものです。




自然教室における火起こしプログラムの 理科実験的展開

    


     

1.はじめに

自然教室に参加した子ども達の感想文を読むと、 楽しかったプログラムには、キャンプファイヤーや 野外調理が上がってくる。  実際に参加した子ども達のほとんどがはじめての 体験として興奮して参加している。 


  野外調理が楽しかったと言うより自分達の食事を

 自分で作った楽しみが多い。 

 また、小学校5年生の自然教室の引率の教師すべてが

 野外活動に精通しているわけではないので、かまどに

 火さえ点かないグループも出てくる。 

 野外活動施設においても、火起こしの「舞錐」が置いて

 あって、木と木を擦り合わせて火を起こそうと、道具を

 置いているところもあるが、実際利用者に聞いてみると

 「煙までは出たが火は点かなかった」の声が多い。
   
  


  一方教育界では「理科離れ」と言う言葉を聞いて久しい。 

 そこでもっと自然教室に理科の第一分野の要素を取り入れ、

 6年生で習う「燃焼」の単元の導入になれば。 

 あるいはただ単に食事を作るだけの「火」をもっと科学的に

 そして楽しく理解できれば、小学校で行く自然教室はもっと

 重要な意味と役割を持ってくる。であろう。






 子ども達にとって数少ない自然体験の中で、今 

「少年科学館などで行なわれているサイエンスショーみたい

 に楽しく火の扱い方が理解できればという願い」で、

 私が指導に行っている自然教室の野外調理に入る前の

2時間の「火起こしプログラム」を紹介する。




  


 

2.火起こしプログラム

子ども達の興味は、火を扱うことよりも調理することに 興味がある子が多い。  また、期待していなかったものが非常に面白かった時、 新しい興味が湧いてくる。  


 100人前後の子ども達を前にして質疑応答を繰り返し

 ながら 実際に火を起こして見せ、最後にグループで起こした

 火を使って調理するという自然教室半日のプログラムである。

 このプログラムは大きく分けて次の「サバイバルキャンプ」

「燃える事とは」「火起こし」の3つの部門からなっている。






 

第一部 サバイバルキャンプ

「原始時代の火」という言葉よりも「サバイバルでの火起こし」 といった言葉のほうに子ども達は関心を示します。  まず「ガスが切れてしまった100円ライター」 「ビニールの袋に入った3本しかないマッチ箱」 「電池の無い懐中電灯」 「棒切れ」 の4つを取り出して「無人島に流れ着いたらこの4つの品を もっていました。皆はどうやって火をおこしますか」 と尋ねると色々な答えが返ってくる。  ここでの答えは「工夫する事」である。

  男の子が多く答える言葉に「木と木を擦って」がある。

 棒切れを渡して「火を起こしてみて」というと起こせない。

「知っている」のと「出来る」、の違いである。
  









 そこで他の3個の品を使って火を起こしてみせる。

 ガスが切れたライターから火が起きた。

 懐中電灯を分解してそして火が起きた。

「キャンプは質素な生活の中で色々な工夫をする事。

 不便の中から知恵を使って便利にしていく。」







「野外でマッチはどう持って火をつけるの?」

「手前に?」「外側に?」「マッチの軸の持ち方は?

 マッチの軸を折ってしまったお友達はいませんか?」と

 話しながら中国新疆ウイグル自治区のマッチを見せる









 中国の西域の新疆で使っているマッチとても小さくて細い。

 でも火が起きる。

 細い軸を折らないように大切に使っています。

10個買って袋に入れてもらったら袋代をとられました。






 マッチの箱の横の赤いところと,マッチの棒は擦った時,

 どっちが先に火が起きると思いますか?

 答えは箱です。箱に塗ってある「赤燐」という薬品がまず

 燃え,その火を軸がうけつぎます。

 軸がぬれていると火が点きません。

 まず普通のマッチを実際にバケツの水につけて点火しない

 ことを確認。どんなマッチがあるといい?

「防水マッチー」

「そう。放水マッチ。 これです。」

 実際に水に浸けてからやってみる

 「点きました−」

 見ている子ども達は拍手

 燃えているマッチを口で吹いて吹き消します

「せっかく点いた火が風で消えてしまいました。

 今度はどんなマッチがあったら便利?」

 「・・・・防風マッチ? ・・?」

「そうです。防風マッチ。 どんなマッチと思いますか」

 もったいぶりながら,軸をチョット見せたり頭を見せたり

 しながら想像力を沸き立たせます。

「じゃじゃーん。  こんなマッチです。 このマッチ防水

 にもなっていますから一度水に浸けてから点けてみましょう」

 子ども達の眼はマッチに釘付けになっている。
 
 濡れているマッチが激しく燃えます。
 
 それを前回みたいに口で吹き消そうとしますがマッチは

 激しく燃えてぜんぜん消える気配はありません。

 しかし5・6秒後マッチは燃え尽きてしまいます。

   「えーっ」

 あっという間の出来事でした。

 「消えてしまいましたね。」


  ここに,もっと長く燃えることができるマッチがあります。

 どんなマッチと思いますか?

「軸のながーいマッチ!!」

「そうです。 こんなに長いマッチ」

 といってバーベキュー用の軸の長いマッチを出す

「もっと長く燃えるマッチがあります。 

 そうですねー1本は5分ぐらい。もう一本は20分ぐらい

 燃えると書いてあります。 さぁ どんなマッチでしょう」

 子ども達の発言が止まります。

「こんなマッチでーす。 ジャジャーン」

 といってバーベキューの着火材として売っているものを出す。

     「そんなのマッチじゃなーい」

「でも先端に赤い発火材と燃える軸がついているよ」

 困った時にこんなものがあれば良いな とか

 不便な時にこんなものがあると便利だな

 と考えることが大切です。

  今までのマッチは箱に入っていて、箱の横の赤い面を

 擦って火をつけていました。

 今度のマッチは箱が無くても火が点きます。

 と言って黄燐マッチ(バーズアイマッチ)を出して

「このマッチは先端に箱の横の発火材が塗ってあります。

 ですからどこででもマッチをすることが出来ます。」

と言って近くにある硬いもので擦って火をつけてみせる。

    「へぇーっ」
 「今度のマッチは・・ 箱も軸も今までとそんなに変わりません。

 どんな特徴を持ったマッチだと思いますか? 」

 と言って炎色反応の「色つきマッチ」を出す。

 子ども達は色々な特徴のマッチを考えて発表する。

「では実際にすって見ましょう。 

 このマッチの特徴は炎に色が着いています。」

     「ええーっ  うそー」

「出る色は 赤か緑か青です。 

 どの色が出るか良く見てて,では擦ります」


     「見えたー 本当だ−スゲー」

 ペーパーマッチを出して

「さぁ 色々マッチを見てきました。

 このマッチの特徴は・・・・。

 今までのマッチを思い出して考えてください。」

 想像力豊な子どもたちは色々な発想でこたえます。

「このマッチの特徴は良いにおいの出るマッチです。」


      「擦ってみて−」




 皆はこんなマッチあったら良いなあと思ったことは

 ありませんか?

      「・・・・?」

 今度のマッチは,片手だけで火が点くマッチです。

 今までのマッチは必ず両手が必要でしたね。

 どんなマッチでしょう。

 引っ張り出すだけで火が点くマッチです。

       「へーっ」


 「あっ、消火用の器の中を見てください。

 沢山のマッチの軸が浮いています。 この軸チョットしか

 燃えていませんね。 もったいないですね。 

 どんなマッチがあれば便利ですか? そう何回も使えるマッチ。

 あります」と言ってパーマネントマッチを出す。

 もうここまで来ると縁日の香具師か、デパートの特売売りの

 おじさんである。

 子ども達の目はもうキラキラ光っている。

「キャンプ生活とは生活を工夫すること」




 

第二部 燃焼(燃える)とは

やっとこから理科になる。 「鉛筆」と「釘」を出して「マッチで燃えるのは? 1.鉛筆。 2.釘。3.両方燃える。4.両方燃えない。 どれだと思いますか?」手を上げさせるといろいろ出てくる。 実際に燃やして見せる。

「正解は、両方燃えない。」
 
 え−っブーイングが出る。

 無視して話を続けて

「昔々、お爺さんとお婆さんがすんでいました。 

 お婆さんは川に洗濯に。ではお爺さんは何処になにしに

 行ったのでしょう?」

 ほとんどの子ども達が声を揃えて

「山に、シバカリに!」

「ええっ。 お爺さんはゴルフ場で芝を刈ってたのぉ?!」 

   「・・・・???」

 今の子ども達は「柴刈り」の意味が理解できません。


 もちろん、二宮金次郎が背中に何を背負っていたかも。

「薪の三種類とは何だと思いますか?」

「松と杉と桧??」

 それは「薪」「柴(粗朶)」「焚付」です。

 背中に背負っているのは薪ではなく「柴」です

 焚付とは細かくした木屑や松葉

 現代では新聞紙や牛乳パック等の紙製品になります。

 そこでまた「鉛筆」を出してさっきマッチで火が

 点かなかった鉛筆も皆の教室から持ってきた、

 捨てるはずの「鉛筆の削りかす」これにマッチで

 火を点けると燃えます。
 




 ではもう一つ燃えなかった「釘」を削ったもの

   「・・・・?」

「それはこれ スチールウールです。」

「あ゛―しってるーぅ」

 燃えなかった鉛筆も釘も細かくするとどちらも燃えます。

 これからの野外調理もおおきな薪に直接マッチでは

 燃えません。薪より細い柴(粗朶)

 柴(粗朶)より細かい焚付けを用意して火を点けると

 良く燃えます。

 どうして細かくすると燃えると思う?

  「・・・・?? ・・空気が入るから?」

 空気が沢山入ると言うことは・・・・・
 

 「火の点いたタバコをごみ箱に捨てるとどうなるの?」

 と聞くと一斉に「火事になるーゥ」

「という事はタバコの火が あればキャンプでご飯が

 炊けるんだ。

 タバコが無いので似ている艾(モグサ)を

 ごみ箱の紙くずの代わりをティシュにして

 実際にやってみせます。



  

 煙がだんだん出てきて最後に炎が出来た時の子ども達の

 目の輝きと感動と拍手!







「舞錐」をだす。「知ってるー」「見たことがある」

 と直ぐに反応が返ってくる。

 「昔の人は火をこの舞錐で起こしていると思って

 いませんか? 良く調べるとちょっと違うみたいです。
 
 江戸時代の浮世絵には色々な職業や道具が出てきますが、

 舞錐は出てきません。

 しかし火打石を使っている絵は多く見られます。 

 舞錐は儀式の時に使っていたみたいです。

 普通の人々は火打石を使って火を起こしていたようです。

 福岡県の 新宮町の横大路家の竈には「法理の火」があって

 1000年前の火がまだ燃えつづけています。

 寝る前に囲炉裏の火に灰をかけ、朝に新しい炭を足して

 火をともしつづけています。 

 昔の人は,一度点けた火を大切に使っていました。

 これが火打金あるいは火打ち鎌と言われているもので

 現在売られているものです。

 鉄の中でも軟らかい軟鉄で出来ています。

 身近にある物でも火花が出るものがあるかもしれません、

 探してみましょう。






 外国の火打ち金としては中国やモンゴルの火起こしセット。

 火打ち金の上部に収納部分があってその中に火打ち石と歩口が

 収納できるようになっています。

 アメリカ先住民族の火起こし具は首から下げる形式に

 なっています。




 これらが火打石と呼ばれている鉱石です。

 鉄よりも硬い鉱物です。

 身近にある、落ちている石としては石英があります。

 白くて透明感のある石です。

 似ている石灰岩では火花は出ずに石灰岩のほうがが欠けます。

 市販の石は、質の悪いメノウが1000円以上の金額で販売

 されていますが・・・・  

 メノウですから科学館などで売っている300円のメノウの

 キーホルダーで十分です。

 それ以外の石では 佐渡の赤石 肥後の油石 四国のサヌカイト

 黄鉄鉱や黒曜石でも火花は出ます。

 火打ち金から飛び出た火花は火口に移されます。

 今日使う火口は、タオルを茶筒で蒸し焼きしたものを使います。

 この火口に落ちた小さな火種は炭火のようにだんだんと燃え

 広がっていきます。

 このままでは、炎は生まれません。

 それは 艾(もぐさ)やタバコの火が炎にならないのと

 おなじです。

  

 火種を炎にするには昔は、薄の穂や蒲の穂綿、棕櫚の皮、


 椰子の実の皮、 竹の皮などを用いていましたが、








 私が考案したのは麻紐をほぐしたものです。 

 10センチ前後にきった麻紐をほぐして最後の繊維までにして

 それに火種を包んで、空気を送り込むと煙が出てきて

 最後に瞬間的に発火します。










 空気は継続してふきこむと早く発火しますが、

 回しながら火を起こすと、起きた火が飛んでいく場合が

 あるのでお勧めできません。

 口より高い位置に持って吹くと煙を吸い込みません。

 火が起きたら慌てず消火用のバケツに火を落とします。

 慌てると子ども達に恐怖心を与えるかもしれません。





 

第三部 火起こし実習

見ていると簡単に見える火起こしを今度は自分達で 試行錯誤で火起こしに挑戦する。 各班に火打石と火打ち金(板付き)火口には 艾か炭化タオルを配る。 子ども達が持ってきているのは、教室や家庭から持ってきた 牛乳パックや鉛筆の削りくず。


 火が起きた時、かまどに薪や柴の置き方などの注意を払う

 場所を説明してそして、不便なことから学ぶこと。

 工夫する楽しさ。

 失敗を乗り越えた時の喜びを得ることの大切さを説明して

「火起こし講座」は終わります。



 


 今度は野外炊飯場でいよいよ実践です。

 あちこちでカチカチ、カチカチ炊飯場が騒がしくなってきます。

 そしてきな臭い匂いが漂って来ると共に

 炎が起きた歓声があちこちからきこえてきます。










 

3. 終わりに

以上、平成5年から小学5年生の自然教室でのプログラムを 述べてきました。  実際はこれに加えて薪の割り方、かまどの使い方調理の仕方、  後始末のなども入ってきます。  しかし自然教室の中でただ単にマッチに火を点けるのではなく、  火が起きるプロセス。工夫することなど正解を教えるのではなく  色々な考え方、試行錯誤の体験を味わってほしいと考える。  この自然教室の最後の番のキャンプファイヤーの火は  班の代表が紐を引っ張って火種を作りその火種を炎にして、  楽しいファイヤーが始まる。   《著者が移っている写真提供  九州写真通信社》 

あとがき



この文は1999年5月に行なわれた 「第3回日本キャンプ会議

抄録集」27ページから30ページに収録されています。

火口に炭化したタオルを用いることをアドバイスしてもらったのは

同会議で「火打金による火付け法」を発表した群馬県の丸山博氏

によるものです。

私の火起こし法は「弓錐式」でありルーツ的にはアメリカ先住民族

の発火法に帰来します。

初めて「火起こし」を見たのは 昭和36年のボーイスカウトの

ア゛ジアジャンボリーの時でした。

高校時代よりスカウトでの営火では弓錐で火起こしておりました。

その時は火口として「艾」を使用していました。

火口から炎にする技法に「麻紐」のほぐした物を考案したきっかけ

は、あるキャンプ中、野鼠の巣を見つけ細かく造ってあったのを

見て麻紐を用いるようになりました。

現在の原始的火起こしを表に引き出したのは、昭和57年5月に

東映映画配給「人類創生」の映画キャンペーンとして

「全国火起こしコンクール」からだと思います。

キャンペーンの一環として九州地区の審査委員にだったのです

が辞退して、参加し「弓錐部門」で優勝しました。

そのときの記録が炎まで「12秒」でした。

その時の審査委員長は 和光大学教授岩城 正夫先生でした。

その後あちこちで「火起こし」の技術などの指導・アドバイスを、

大きなものとしては「飛び梅国体」「紅花国体」

「福岡市民スポーツ大会」「ユニバーシアード」「炎博覧会」等の

炬火の採火があります。

自然教室のキャンプファイヤーの火を 子ども達の力で起こして

いますが、その始まりは、子どもの家庭が信じる宗教の関係で

「女神」「山神」等の宗派の違う神様の行事には参加せず退席

する子どもがいたからです。



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